2015年7月13日月曜日

一期一会

『一期一会』この言葉は、千利休が
「茶の湯で出会う人は、たった一度
限りの面会かも知れないから
心からのオモテナシをしよう。」
という思いから生み出した言葉だと
言われています。でありながら
太閤も頭を下げなければ入れない
入り口、上も下もない狭い空間、
どこでも見かけるような花…。
一見オモテナシとは思えないような
コーディネイトは、世俗のしがらみ
から解放され、真に心の交流が出来る
空間として茶の湯を考えていたから
ではないか、私はそう感じています。

演劇を生業にしている頃
「芸能界は華やかですよね~。」
なんて言われると
「いえいえ、私達は舞台ですから
全然地味なんですよ~。」なんて
答えるのが常でしたが
地味とか派手とかではなく
根本的に違うのは
舞台は一期一会だってことでした。
テレビや映画は後世に作品を残し
何度でも観て頂くことができますが、
舞台の録画は舞台とは別物です。
営業の現場も一期一会が常であり
特に悲しい記憶は頭から離れません。

営業で福井県を訪れ
外国との親善交流をなさっている
◯◯友好協会の会長さんを
お訪ねしたことがあります。
当時私は40歳、会長さんは80歳
私の倍も生きてらっしゃいました。
「文化芸術は国情を超えて人々を
つなぎ合わせるのでは?」と私が
力説すると「その通り。」と共鳴して
下さいました。そして
私が生涯忘れられない言葉を
プレゼントして下さいました。
「武内くん、人間はなァ、残りの命が
短いと悟った時になァ、自分が
本当にやりたいことは何かと
考えるもんやで。」と言って
ニコ~っと微笑まれました。
会長さんは翌年に亡くなられ、二度と
お会いすることは出来ませんでした。
「会長さんにとって、本当にやりたい
ことって、何ですか?」と、何故
あの時、聞いておかなかったのかと
悔やまれました。

福岡県の或る中学校に作品を
売り込みに行った時、ご担当の先生は
40歳前後に見える男性、私は52歳
ぐらいだったと思います。
「今年は芸術鑑賞の予定はないんで
すよ~。でも、秋に人権週間が
あって、そこで劇を観せることは
あるんですよ。おたくは、人権を
テーマにした作品、やってます?」
福岡県では在日朝鮮人や部落出身者
の人権をテーマにした映画や演劇を
生徒に観せることが多いとのこと。
私は即座に答えました。
「トラとウサギが仲良くなる話なら
ありますよ。山形や滋賀で中学生
の自殺が相次いだんで、いじめを
テーマに創作したんです。」
「こういうのを待ってたんですよ!
これがいい!これで行こう!」と
職員室中に聞こえるような大きな
声で言って下さいました。しかし、
その先生は公演当日を迎えること
なく、お亡くなりになりました。
やはり、二度とお会いすることは
出来ませんでした。

素敵な出会いは、別れが辛いですね。
素敵な人生もまた、去りがたいもの…
一期一会は人生そのものを
表した言葉なんですね。

武内利之の「ザッツ・ライフ」
原則、毎週月・水・金の朝に更新。
E-mail:
at-home-takeuchi@aqua.ocn.ne.jp

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