音楽を放り投げて真っ先にしたことが、ブラバ
ンに入部することでした。それまでは、放課後
になると音楽準備室でクラの自主練をしてたけ
ど、隣の音楽室ではブラバンの部員達が練習し
てたので、気にはなってたんです。中学の頃に
3年間ブラバンをやってたので、合奏の楽しさ
は体が知ってましたからね。
一方、Aちゃんとの交際は順調に進み、私の
妹まで彼女の家に遊びに行ってしまうほど
親密な仲になって行きました。ブラバンと
彼女という最強アイテムを2つも手にした
私は、幸せの絶頂だったかも知れません。
高2になると、進路のことを考え始めました。
音楽を放り投げたはいいけど、それに代わる
目標が何もなかったんです。何しろ幼少の頃
から芸事ばかりやって来たんですからね。
学校の成績は、理数系より文科系の方が良く、
中でも英語が安定して高評価を得ていて、自分
も学ぶのが好きでした。なので、大学の英文科
に入って、英語力を活かした職業につくと決め、
高校の近くの学習塾に通い始めました。
ところが高2の秋に、ちょっとした出来事が
ありました。私の通ってた高校では、毎年
11月3日に公会堂を借り切って文化祭を
してて、部活単位でも、クラス単位でもいい
から、名乗りを上げれば20分の出演機会を
与えられたんです。その頃の私は、ウェスト
サイドストーリーとか、屋根の上のバイオリン
弾きとか、アメリカのミュージカル映画に
はまってて、サウンドトラックのLPを買って
擦り切れるほど聞いて、映画館で上映される
度に観に行ってました。そんな私はクラスメイ
トに声をかけ、ウェストサイドストーリーの
1シーンを20分で発表することにしました。
私は裏方に徹し出演しないことにしましたが、
本番直前になって主役のトニー役をやることに
なってた男子が尻込みして辞退、仕方なく私が
トニー役をすることになりました。
場面は「体育館でのダンス」有名な「マンボ」
を踊った後にトニーとマリアが出会い「マリア」
の変奏曲で時折指を鳴らしながら静かに踊る場
面でした。マリア役を演じたのは学年1の美女
で、私に気があると噂されてた人でした。裏方
に徹しようと思ったのは実はそんな気まずさが
あったからなんです。でも結局、相手役をする
ことになり、最後にキスする寸前でカット
アウトって感じの出し物でした。稽古の時、
最後のキスシーンで私が彼女に顔を近づけると、
彼女の顔が真っ赤になったのを昨日のことの
ように覚えています。でも、私にはAちゃん
がいたし、その美女には全く関心がありませ
んでした。私はあの頃から、人間的な魅力を
感じないと女性に興味を持てなかったようです。
文化祭を終え、気心の知れた仲間と話し合い、
来年は本格的なオリジナルミュージカルを発表
しようってことになりました。
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名も無き親爺が人生を語る
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武内利之の「ザッツ・ライフ」

