2015年5月20日水曜日

助けて~

北海道のどこの宿だったか
記憶が定かでないんですが
けっこう田舎の方の
小さな宿だったと思います。
夜も更けて、そろそろ寝ようかと
思っていると、どこからともなく
女性の声が聞こえてきました。
「助けて~。助けて~。」かすかに
そう言っているように聞こえました。
苦しげに低くうめくような声です。
私は心霊現象なんて信じてませんが
さすがにビビりました。が、その声の
真相が解らぬまま眠る訳にもいかず
とりあえず廊下へ出てみました。
「助けて~。助けて~。」確かに
女性の声が館内のどこからか
聞こえてきます。私は恐る恐る
声のする方へ歩いて行きました。
そして女性トイレの前で
足が止まりました。声はトイレの
中から聞こえて来るようです。
「幽霊じゃない。」と確信しましたが
トイレの中で何が起きているのか
想像がつきませんでした。
「助けて~。助けて~。」声は断続的
に聞こえ、止むことはありません。
「何らかの理由で倒れてしまって
自力で起き上がれないのでは…。」
と思いましたが、そうと限った訳では
ありませんし、下半身をあらわに
したままの格好かも知れません。
犯罪者が忍び込んでいる可能性も
捨て切れません。中へ入るか否か
しばらく決心がつきませんでしたが
助けを求めていることだけは
確かですから、私は助けなれば
ならないと思いました。そして
勇気を振り絞って中に入りました。
すると、1つだけドアの閉まった
トイレがありました。どうやら
その中に声の主がいるようです。
私はドアに近づき言いました
「どうなさいましたか?」すると
ドアの上から女性の顔が出て
私を見下ろしました。
心臓が止まるかと思いました。
「どうなさいましたか?」女性の顔を
見上げ、もう一度訪ねました。
「ドアが開かないんです…。」
どうやら便器に乗って上から
顔を出しているようです。
「鍵が閉まってるんですか?」
「鍵を開けても開かないんです。」
私はドアノブを握り、引いて
みましたが、確かに開きません。
けれども押してみたら開きました。
女性はちゃんと服を着ていました。
高齢者と言うほどではありませんが
60歳前後に見えました。
「押してもだめなら引いてみなって
言いますけど、本当ですね。」と
私が言うと、女性はホッとされて
「ホント、引けば開くのに、私
押してばっかりいて…。」
何事も無くて結果オーライですが
人騒がせなオバ様でした。

でも、今となっては
心に残る楽しい思い出です。

To be continued

武内利之の「ザッツ・ライフ」
原則、毎週月・水・金の夜に更新。
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