私は高校に入ってからも
クラリネット奏者になるべく
レッスンと学業の両立に必死でした
しかしその生活は高校1年生の年の
12月いっぱいで終わりました。
英才教育を受けたエリートとの
実力差に愕然としていたところに
家庭内のゴタゴタが重なり
志を捨ててしまったんです。
「君が芸大に入れるようにと
私なりに一生懸命教えてきた
つもりだ。だからせめて、理由
を聞かせてくれないか?」と
クラリネットの先生から言われ
「音を楽しむと書いて音楽。だから
これからは楽しみたいんです。」
とだけ答えましたが、苦し紛れの
言い訳に過ぎませんでした。
翌1月から私は、高校の
ブラスバンド部に入部しました。
自分の言葉通り
音を楽しみたかったんです。
そして私が3年生になった年に
入部してきた1年生の中に
一風変わった男子生徒がいました。
何でも、彼の一家は芸術家一家で
お父さんは画家。兄弟は美容師・
アニメーター・カメラマン…。
いちいち覚えてられないような
多彩な家族でした。彼自身は
ブラバンでテナーサックスを
吹くことになりましたが
その時点ではプロを目指すといった
具体的な目標はなかったようです。
しかし私が卒業した後に
プロのフルート奏者になろうと
決心したらしいんです。
人生とは皮肉なものです。
10歳からピアノを始めた私が
自信喪失して逃避したのに
後輩は高校卒業間際になって
プロを目指そうと決心する…。
しかも彼の特筆すべき点は
全く音大を受験せずに二浪した
というところにあります。
彼いわく「どうせ受けても受かる
訳ないから受けなかっただけ。」
まったく理にかなった判断です。
でも、18~9の若者がそこまで
肝が据わってていいんでしょうか?
練習のつもりで…、肝試しで…、
あわよくば…、などと考え
とりあえず受けてしまいませんか?
いかした奴だぜ!
昔の日活映画じゃありませんが
私の世代は愛着と羨望と賛辞の意を
そんな言い方で表現したくなります。
これまで私が出逢った中で
この言葉で表現したい人は唯1人
彼だけです。私も彼のような
いかした奴になりたいけど
とうてい無理です。
いま彼は音楽教師をしながら
アマチュア・バンドで大いに
音を楽しんでいるようです。
Because, that’s his life !
武内利之の「ザッツ・ライフ」
原則、毎週月・水・金の夜に更新。
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